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(美雨ー・・・)
風の音に紛れて、千歳の声が聞こえてくるような気がする・・・。
まるで本当に聞こえてるみたいにはっきりと思い出せる、綺麗なアルトボイス。
高校では合唱部に所属していて、一年生ながらパートリーダーを任されるくらいの才能の持ち主。
万年帰宅部で、取り柄なんか何もない私とは、やっぱり釣り合わないよね・・・。
千歳の高校は優秀な進学校だし、きっと私なんかより素敵な子がたくさんいて・・・。
千歳は、その子たちと・・・。
そんなことを考えて、どんどん気分が沈んでいく。

(おーい、美雨!)
心なしか、私の中の千歳の声はどんどん大きくなっている気がする。
幻聴が聞こえるって、さすがにマズイよね・・・。
千歳に会えないストレスで、私、このまま壊れちゃうんじゃないかな・・・。
(美雨ー? 聞こえてるかー?)
あぁ・・・私、思ってた以上に千歳に依存してたんだ・・・。
もしかすると、千歳はそのことに気づいてて、それを重荷に感じてたのかな?
(あぁ、もう・・・)
ごめんね、千歳・・・。
私、もっとしっかりするから・・・。
だから、だからもう一度だけ・・・。

「美雨ってば!!」
「っ!?」
強く肩を掴まれて、意識が現実に引き戻される。
「ちと・・・せ・・・?」
視界はいつの間にか滲んでいた涙で霞んでいるけれど、目の前には間違いなく、ずっと、ずっと会いたかった人の顔があった。
「よっ、久しぶり。 なんかぼんやりしてたけど、大丈夫か?」
「ちとせ・・・千歳ぇ!!」
「わっ!?」
もう離さない。
そんな気持ちで、背中に回した腕に力を込める。
「ばかっ・・・。 私・・・寂しかったんだからっ・・・」
次から次へと涙が溢れてくる。
ダメだと思っても、一度決壊してしまったダムの水は止められない。
「美雨・・・」
「なんで連絡くれなかったの・・・? 電話にも出てくれないし・・・メールも返ってこないし・・・」
嗚咽で途切れ途切れになりながらも、言葉を紡ぐ。
「ごめんな。 初めてのバイトだったから、どうにも余裕が持てなくてさ。 美雨と話すとすぐ愚痴っちゃいそうだったから」
頭を撫でながら、諭すように優しく言葉を紡ぐ千歳。
「バイトって・・・アルバイト・・・?」
混乱した頭では、ひとつの単語を理解するのも覚束無い。
「なんで千歳がアルバイトを・・・?」
それも、なぜだか私に黙って。
長い間会えなくなるのがわかっていたなら、ホントのことを言ってくれても良いのに・・・。
「・・・美雨。 あたしの母さんから、何も聞いてないのか?」
千歳は少し考え込んだあと、神妙な顔でそう言った。
「・・・え? どういうことなの・・・?」
さっきから、話が全然噛み合っていない。
とりあえず、千歳は私がアルバイトの件を知っていたと思ってるみたいだけど・・・。
「まったく・・・。 美雨には話して良いって言ってたのに・・・」
心底呆れたような口調でつぶやいている。
「千歳・・・?」
「えっとな、あたしは前に美雨と電話で話してから、今日までずっと放課後は部活の後、アルバイトしてたんだ。 母さんには美雨に言伝ておくように言っておいたんだけど、どうにも上手く伝わってなかったみたいだな」
「そう、なんだ・・・」
私が千歳の様子を聞きに行ったときの、千歳のお母さんの困ったような表情が脳裏に浮かぶ。
千歳のお母さんはたぶん、自分の娘が校則を破ってアルバイトしていることが外に漏れるのを嫌ったんだろう。
昔から躾には厳しい人だったから、十分にありえる。
「わかってくれたか?」
「う、うん。 それはわかったけれど、どうしてアルバイトなんか・・・」
疑問は1つ解決したけど、そうすると次の疑問が浮かび上がってくる。

「それは・・・これを買う為に、な」
そういって、ポケットから四角い箱を取り出す。
真っ白の包装紙に包まれ、赤いリボンで丁寧に結えられたそれは、プレゼント用の包装のようだ。
「これはあたしから美雨へのプレゼントだ」
少し照れくさそうにしながら、私へとその箱を差し出す。
「え・・・? なんで・・・?」
私は目の前で起こっている事態が飲み込めず、ぽかんとして千歳と箱を交互に見やる。
「・・・・・・・・・。 ・・・美雨ちゃん、今日は何月何日かな?」
しばしの沈黙の後、千歳は少し険しい顔をして、子供をあやすように問い掛けてくる。
「今日は・・・えっと・・・」
あわてて携帯電話で日付を確認する。
「おいおい・・・。 まさか、日付を忘れる程にあたしのことで頭が一杯だったのか?」
ため息を吐き、呆れたような笑顔でこちらを見る千歳。
ドジな私に昔からよく向けていたその表情と、携帯電話に映し出された数字を見て、ふっと視界が晴れた気がした。
「・・・そうかも。 ごめんね、今、全部わかった」



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